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和文化

さらりとオシャレに着られる阿波しじら織とは

阿波しじら織とは、徳島県阿波地方で作られる木綿織物です。

今回は阿波しじら織の着物について解説していきます。

阿波しじら織とは

阿波しじらは「シボ」と呼ばれるデコボコの表面で知られる織り方と、そうして作られた着物や製品のことをいいます。

主に木綿で織られ、着物の場合は単衣の着物になります。

シボがあることで肌に張り付かないので、快適に着られるのが特徴のひとつです。

「阿波しじら織」として徳島県伝統的特産品に指定されています。

阿波しじら織の特徴

最大の特徴「シボ」

阿波しじら織りの最大の特徴はなんといってもその独特のシボです。

シボとは、織り上がった織物の表面にあらわれた凸凹のこと。

▲表面に凹凸感がある

シボのある着物には本塩沢や綿麻など様々な着物がありますが、中でも阿波しじらは特に特徴的です。

この他にしじら織と似た風合いのもので、「縮(ちぢ)み」がありますが、この2つは織り方に大きな違いがあります。

「縮み」との違いは?

縮みの有名なものには、阿波しじら織の他に、越後縮、小千谷縮などがあり、着物愛好家からは盛夏用の着物として愛されています。

縮みの織り方が撚糸・強撚糸(強くよりをかけた糸)を用い、その撚りからうまれる糸のうねりを使ってシボを作るのに対し、しじら織では撚糸は使いません。

しじら織では、織り方と、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の張力(引っ張り合う力)の差によってシボを作ります。

しじら織と縮みはぱっと見では似ていますが、実は織り方から全く違う織物なんです。

阿波しじらと藍染の関係

阿波地方の生産で有名な阿波しじら織ですが、同じ阿波地方でもう一つ有名なのが、藍染めです。

阿波地方の藍染めは阿波正藍(あわしょうあい)と呼ばれ、古くは平安時代の終わりごろから栽培されてきました。

経済産業省が定める伝統的工芸品では「阿波正藍しじら織」の名前で登録されているほど藍染めとしじら織の関わりは深く、現在でも「阿波しじらといえば藍染め」というイメージの方は多いようです。

▼藍染めをくわしく知りたい方はこちら

日本を彩った”ジャパンブルー”藍染めとは

阿波しじらの扱い方

シボのお陰で肌との接着面積が少ない阿波しじらは、軽く着心地もさわやかで、丈夫です。

先の藍染めとの関係から、阿波しじらというと藍色のイメージが今でも定着していますが、近年では様々な色を取り入れた阿波しじらも多く、カジュアルに楽しめる幅が広がっています。

ここでは阿波しじら着物・浴衣のTPOやお手入れ方法などをご紹介していきます。

着られる季節

阿波しじらは基本的に木綿で織られ、裏地のない単衣仕立てでのお仕立てが多いです。

裏地がなくても木綿生地は厚さがあるので、かなり長いシーズンで着用できます。

紗や絽のように透け感があるわけではないので、春・秋にも着やすいのが嬉しいですよね。

目安は5月~9月頃ですが、最近は暑い時期が長いので調節すれば4月~10月ごろまで着ることができます。

また、夏には長襦袢を着用せずに浴衣として着ることもできますよ。

▼木綿着物についてくわしくはこちら

春・秋・冬3シーズン着られる!木綿着物の特徴と魅力とは?

着用シーンと帯合わせ

阿波しじらはカジュアル着物に分類されます。

ですので、セミフォーマル以上のお席には向かない着物になります。

日常のおでかけやかしこまらない場所で着るのがよいですね。

合わせる帯は着物として着るなら名古屋帯や、半巾帯がオススメ。

浴衣として着るなら、スッキリした色柄の半巾帯や兵児帯を合わせるとよいでしょう。

お手入れ法

木綿の阿波しじらは生地自体が丈夫なので、洗っても傷みにくく、自宅で洗うことができます。

とはいえ、傷みを避けるためにはおしゃれ着洗用洗剤で手洗いするのがおすすめ。

洗濯機で洗濯するなら、畳んで(型崩れを防ぐため)ネットに入れ、手洗いモードなどの優しいモードで洗いましょう。

▼着物用の洗濯ネットもオススメ

着物用洗濯ネット

色落ちすることがあるので、洗濯機を使う場合には色移りにも注意です。

着物ハンガーなどに掛け、軽く型を整えて陰干ししましょう。

アイロンを掛けてしまうと独特のシボが潰れたり伸びたりしてしまう可能性があるので、NG。

手で布目を整えて保管しましょう。

製作工程

阿波しじら織が完成するまでには、大きく7つの工程があります。

【1】 綛上げ(かせあげ)

糸を「綛枠(かせわく)」という器具を使って輪状に巻き取り、まとめます。

糸をまとめることで染色しやすくなります。

【2】 染色

綛染専用の釜で糸を染めます。

阿波しじらの染めとして代表的な藍をはじめ、化学染料も使いながら様々な色に染めて、天日干しします。

藍甕_藍染め

▲藍染め用の藍甕(あいがめ)

【5】 糸繰(いとくり)・整経(せいけい)

染め終わった糸は、まず輪状になっている綛(かせ)を織りのために木管に巻き直す「糸繰り」をします。

続いて、「整経」といって経糸(たていと)を本数・幅・長さ・柄の配列などを整える織り前の準備作業を行います。

【6】 機織

阿波しじらの生地を織り上げていきます。

着物用の着尺用では約38センチ、洋服やインテリア用では約114センチの幅と使い分けられています。

【7】 湯通し・乾燥

実は、織り上がった生地にはまだシボがありません。

ここで一度お湯に通して乾燥させる工程を行うことで生地が収縮して張力差が強まり、あの独特のシボが生まれるのです。

こうして阿波しじら織の生地の完成です。

阿波しじら織の歴史

阿波しじら織の誕生

「阿波しじら織」が生まれたのは江戸時代末期から明治時代のことです。

当時、阿波国名東郡安宅村(現在の徳島県徳島市安宅)では「たたえ織」という木綿織物が盛んに作られていました。

このたたえ織を、安宅村で織女をしていた海部ハナさんという女性が改良して生まれたのが阿波しじら織。

そのきっかけは、干していた着物がにわか雨に濡れてしまい、そのまま日光で乾かしたところ、ところどころ縮んだことだったと言われています。

海部ハナさんはこの凹凸に魅力を感じ、あえて凹凸がある織物を作る改良をはじめます。

ところどころ縮んだ箇所は糸の本数を間違えたところであることに気づいたことから、シボができるしじら織りの技法が誕生しました。

この頃阿波では一般庶民が絹の着物を着ることを禁じており、庶民たちは木綿織物でいかに差を出すか工夫していました。

出来上がった阿波しじら織は安価な木綿で作ることができ、軽くて肌触りがよいと庶民の間で人気となり、阿波では夏から秋にかけて着る普段着として普及していきました。

阿波藍と阿波しじら織

また、阿波では藍の栽培を奨励しており、室町時代終わりごろから染料としての加工藍を生産してきました。

阿波藍は明治時代に入るまで良質な染料として重宝されており、しじら織にも利用されるようになったのです。

阿波地方で藍の生産が衰退した後も阿波しじら織は普段着として親しまれ、1978年に当時の通産省より「正藍阿波しじら織」として伝統的工芸品に登録されました。

衰退と復興

江戸時代から明治時代にかけて全盛期を迎えた阿波しじら織。

その年間生産数は、1877年頃には150万反にも登ったといます。

しかし大正時代に入ると、化学染料や安価な海外産藍に圧された藍染めの衰退とともに阿波しじら織も衰退していきました。

綿は戦中、戦後に敷かれた厳しい物資統制の対象の一つとなり、一時は生産中止を余儀なくされた阿波しじら織。

1951年に統制が解除されると

まとめ

阿波しじらは着心地がよく、長いシーズン着ることができる木綿着物です。

その使い心地の良さからシャツやネクタイ、インテリアに使われることも多くなりました。

着物としてでは、お出かけにはもちろん、比較的お安く手に入ることから練習用としてお求めになる人も。

着物⇔浴衣とシーズンによって着回しが着るのも、初心者さんにとっても、上級者さんにとっても嬉しいポイントですね。

written by ISHIKURA

歴史学科卒業後、地元の歴史ある企業・きもの永見で呉服の世界へ。 日々着物のことを学びながら皆様の「分からない」にお答えしていきます。

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