着物を着る際に彩りが加わる和装小物。
特に、襟元を飾る半衿は着物の種類や季節感、TPOなどによって様々な種類があります。
「半衿」の色やデザインをバランスよくコーディネートし、お手持ちのきものに合わせて和装を楽しむポイントをご紹介します。
目次
半衿とは?半衿の役割
半衿とは着物の下に着る「長襦袢につける衿」のことを指します。
幅約15cm、長さ約110cm程度と実際の襟の半分程度の長さであることから「半衿」と呼ばれるようになりました。
半衿は最初から長襦袢についているわけではなく、長襦袢本体についている「地衿」の上から半衿を縫い付けておく必要があります。
半衿が必要な理由
なぜ地衿のまま着用せず、わざわざ半衿をつけるのでしょうか?
それは、汚れが付きやすい首周りに半衿を被せることで、長襦袢本体や着物を守る必要があるからです。
よくクリーニングの相談でお受けすることが多いのが着物・長襦袢の衿近くの汚れです。
首元は特に地肌からの皮脂や汗汚れが付きやすい部分です。さらに、着物を着る際はあら給った装いを心がけ、整髪剤をかけたり、ファンデーションをしっかり塗ってメイクをすることが多いです。ファンデーション汚れ等が付いてしまうとなかなか落ちにくく、お手入れ代金も余分にかかってしまいます。
これらの理由から、半衿は最も汚れやすい長襦袢の首元をカバーして、半衿が汚れたら交換してすぐに使えるようにする役割があります。
おしゃれアイテムとしての半衿
汚れ防止という機能的な面もありますが、半衿には着物のコーディネート上でも大切な役割があります。最も顔元に近い部分の半衿は、色や柄によって顔映りが大きく変わるため、おしゃれアイテムとしても重要です。
半衿は白の無地が基本ですが、色付き、質感も光沢のあるもの、刺繍付きのもの、レースタイプなど種類が豊富なので、様々なコーディネートを楽しむことができます。
着付けのために必要
また、半衿がかかっていない長襦袢ですと着付けに支障が出てしまいます。着物を着る際は、半衿と地襟の間に襟芯を差し込むことで長襦袢の襟をきれいに美しく見せる役割もあります。
着物を着る前の事前準備として、あらかじめ半衿が付いて居るかどうかを確認するようにしておきましょう。
TPOに合わせた半衿の種類
半衿は、着物の種類や着用時期、デザインに合わせてさまざまな種類があります。TPOに沿った半衿選びをするために、どんな時にどのような半衿がふさわしいかを解説します。
基本の半衿は白?色物は使っても良い?
長襦袢を仕立てる際、あらかじめ白い半衿を付けておく場合がほとんどです。白い半衿であれば式典のような正式な場でも、気軽にお出かけするカジュアルシーンでも場所を問わず使用できます。
特に、結婚式や大きなお茶会のような畏まった場所では白が無難です。
一方で、成人式は着用者の個性を出すために華やかな刺繍衿を付けるのが近年では多いです。
特にこだわり無く、最初からついている白い半衿で着用したら、他の人達は皆華やかな刺繍衿を付けていて、後から後悔した…というお話もお聞きします。
また、カジュアルな着物でしたら、トータルコーディネートと合わせた色物半衿を付けると、ただの白よりおしゃれ上級者に見えます。せっかくの着物姿でおしゃれを楽しみたいのなら、色柄を足してみるのも選択肢の一つ。
おしゃれに着物を着こなす選択肢の一つとして、長襦袢に付ける衿は白だけでなく、色々な種類がある、ということは知っておいたほうが良いでしょう。
白半衿がふさわしい着物
結婚式などで親族の方が着られる黒留袖に合わせる半衿は、白半衿が無難です。
白の礼装用の長襦袢には塩瀬(塩瀬羽二重)の半衿がついているかを予め確認しましょう。
また、喪の際に着用する黒紋付や色無地には刺繍のない無地の半衿を合わせるのがルールです。
白半衿は冠婚葬祭など、正式な場所にふさわしい半衿です。
白・金・銀の刺繍衿
慶事で着用するフォーマルな訪問着や付下げは白以外でも、白・金・銀の刺繍半衿が使用できます。
また、成人式で着用する振袖にも白金の刺繍半衿を合わせると、シンプルかつ上品な装いになります。
白地に白糸の半衿も、シンプルながらボリューム感がアップします。
刺繍半衿
成人式の振袖や卒業式の袴姿で使用される方の多い刺繍半衿。色とりどりの刺繍がたっぷりと衿元を彩り、一生に一度の式典にふさわしい華やかな装いになります。
色物・柄物半衿
色とりどりの半衿や可愛い柄の半衿は、街着、遊び着などカジュアルシーンであれば自由に使えます。
ただし、金銀の糸が入った半衿で色や柄を足せば、コーディネートに幅ができ、おしゃれな着こなしを楽しめます。アクセントとしてきものを明るく見せ雰囲気を変えるのにも役立ちます。
雪の結晶や金魚など、季節の柄が入った半衿を時期に合わせて使えば、季節の移り変わりを感じさせる通な着こなしで遊べます。
フォーマル着物の際のNG半衿
淡い色の半衿であれば、セミフォーマルなきものと合わせることもありますが基本的に色柄が入ったものはカジュアルシーンで使うもの、と覚えておきましょう。きものと半衿のコーディネートは大切なことですが、TPOが関係してくる正式な場所には白半衿がお勧めです。
季節ごとの半衿
半衿は着物同様に季節に応じて種類を変える必要があります。おしゃれ重視の方は、一度季節に適した半衿を選んでいるかを確認したほうが良いでしょう。
幅広い時期に使用できる半衿
・「塩瀬」
「塩瀬(白塩瀬羽二重)」は、10月頃から春先の5月頃まで着用するきもので使用できます。袷の着物の時期に用いる半衿の最も代表的なものと言われています。
密に張った経糸に太い緯糸を打ち込んであるため、横畝に特徴がある織り方で、振袖や留袖、訪問着などのさまざまなきものに合わせて、きもののコーディネートを楽しめるのがポイントです。
また、正装だけでなく、小紋や紬、御召、木綿などの単位仕立てのきものでも幅広く合わせられます。
夏の半衿
夏にきものを着用する場合に必要なのは、着ている人も見る人も涼感を味わえることです。そこで、夏は盛夏用の透ける襦袢を準備しますので、それに付ける半襟も同様に透け感のある夏の衿を付けていきます。
夏用の半衿の種類をいくつか説明します。
・「絽」
「絽」は夏の代表的な素材で、独特の隙間が涼感をさそいます。「絽」を素材とする半衿は、6月から9月下旬ごろまで着用する“夏の半衿”と覚えてしまいましょう。隙間のある織り方が特徴で、涼感のある雰囲気が夏の素材として爽やかなイメージの半衿になります。
夏に着用することの多い「裏地のない単衣仕立て」のきものなどに、合わせやすい素材です。
・「麻絽」
夏紬や麻などの夏の織りのきものによく合うのが麻の半衿です。涼しげなしぼりがあり、生地は透け感のある絽が特徴。
7月や8月の盛夏期に着る夏紬や麻などの織物のきものに「麻絽」の半衿を合わせて、涼しげな衿元できものを楽しめます。
・「楊柳」
「楊柳」は、“ようりゅう”や“きんち”と呼ばれる、織り方が縦向きになった「縦しぼ」が特徴です。「楊柳」素材の半衿は、5月に着用する春単衣や9月頃着用する秋単衣に合わせた、きものの衿元に似合うと言われています。
・「絽縮緬」
透け感のある絽に強い拠りをかけた縮緬素材です。さらりとした着用感が特徴で、涼しげで適度な存在感が楽しめます。
絽や麻絽などと同じ時期に着用しますが、特に6月と9月の時期の単衣着物に合わせることが多いです。同じ素材の絽縮緬以外にも織物、小紋などどちらでも合わせれられる半衿素材です。
▼夏の半衿について、フォーマル系、カジュアル系などをまとめた記事はこちら
冬の半衿
・『縮緬』
細かいシボが印象的な縮緬の半衿は、地厚でボリュームがあるので、どちらかというと冬向きとなります。
素材にもボリューム感があり、温かい印象なので袷の着物、紬などにもコーディネートがしやすい半衿になります。
成人式の振袖用に、縮緬素材+刺繍の入った刺繍衿が使われることも多いです。
失敗しない半衿選びのポイント
TPOや季節に合わせた半衿の種類について解説してきました。そこで、様々な種類の中から半衿を選ぶ際、どのようなことに気をつけたらいいか、ポイントをまとめました。
半衿のTPO
・結婚式やお茶会など、フォーマルな場で着物を着る時は白半衿がおすすめ
・喪の時の半衿は必ず白半衿
・成人式や卒業式に出席する時は、刺繍衿で華やかにするのがおすすめ
・色柄のある半衿はカジュアルな時におすすめ
半衿の季節
・10月頃から春先の5月頃までは塩瀬の半衿がおすすめ
・盛夏の時期(6月~9月上旬)は絽がおすすめ
・着物の生地に合わせた半衿選びがベスト
半衿のコーディネート
・白い半衿はカジュアル・フォーマルどちらでも使用OK。迷った時は白半衿がおすすめ
・セミフォーマルの着物で白以外の半衿を使いたい時は、白地に金・銀糸の刺繍衿がおすすめ
・カジュアルな着物の時は金彩の半衿はNG。着物や帯、小物と同じトーンであわせるのがおすすめ
・季節感を出したい時は、その時期ならではの刺繍が入った半衿を使ってみる(冬→雪だるま、夏→金魚 など)
半衿の組み合わせに迷ったら
半衿のTPOや季節感、コーディネートに自身がない方、いろんな意見を聞きたい方は呉服店に行き、着物の知識が豊富なプロに相談をしてみるのも方法の一つです。着物一式と半衿を持っていくと色合わせなどがしやすくなります。
▼きもの永見ではお客様の着物のコーディネートや、季節とTPOに合った小物合わせについてもお手伝いさせて頂いております。
詳しくはこちらの「きものコンシェルジュ」の記事からどうぞ。
半衿はどうやって付ける?
半衿は初めから襦袢についているものだと勘違いしている人も多く、成人式当日に半衿をつけてくるのを知らなかったという方も少なくありません。
半衿を長襦袢に付ける方法にはいくつかのバリエーションがあります
針と糸で縫う方法
半衿を糸と針で縫い付ける、基本の付け方です。
縫い方は
・本ぐけ
・一目落とし、二目落とし
・しつけ縫い
・かがり縫い
など色々ありますが、実はこだわりません。本ぐけは縫い目が表に見えないので心配いりませんが、他の縫い方のときは『衿ぐり』のみ縫い目が見えないように小針で縫います。
慣れないうちは大変ですが、コツをつかめば15分~30分ほどでできるようになります。
ポイント
①半衿、長襦袢の衿をピンと張って待ち針を打つ
②見えない部分はざっくりでもOK
③抜き衿の裏側は半衿を突っ張らせて細かく縫う
縫い終わったら、最後に糸をしっかりと結んで結び目を隠します。必要に応じて、余分な糸をカットします。
手縫いで丁寧に縫うことで、より美しい仕上がりになります。
もし初心者で不安な場合は、着物の専門店や手芸店でアドバイスを受けたり、縫製の専門家に依頼することも考えてみてください。
きもの永見でも半衿付けを承っておりますのでお申し付けください。
※半衿付けにかかる日数は、時期によって異なりますので事前にご確認ください。
※至急品はお受け出来ない場合もあります。
▼きもの永見で開催した半衿付け教室の記事です
半衿を楽しもう
半衿や重ね襟などの顔まわりにくるアイテムは、顔色を良く見せる大切な大切なきもの用の小物です。
ぜひご自身のお気に入りの半衿を用意し、フォーマルでもカジュアルでもTPOに合わせて、和装の着こなしを楽しみましょう。
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written by TAKAHASHI
文化学部卒業後、和文化に興味を持ち地元の歴史ある企業・きもの永見で呉服の世界へ。 日々着物のことを学びながら皆様の「分からない」にお答えしていきます。
この記事を監修した人 A.OTA
きもの永見「美装流着付け教室」講師。 「着物でお出かけしてみたい」そんなあなたのお手伝いを致します。 着付け教室HP https://kimono-nagami.com/school/