着物用の羽織やコートはかつては防寒・雨除けなどのために重ねて身に纏っていましたが、近年はコーディネートを楽しみながら着用することも増えてきました。
着物のコートと羽織はどちらも着物の上に身につけるものですが、どちらを着ていけばいいのか、選び方や用途の違いなどについてお問い合わせをいただくことがあります。
そこで着物の羽織・コートの種類やどのような場に適しているかなど、写真つきで解説します。
これから羽織もののお仕立てを考え中の方、お家にあるコートや羽織がどういった時に使うものかなどを知りたい方はご参考にどうぞ。
着物のコート
着物のコートはお洋服用のものと同様にあくまで外出用なので、部屋の中に入る時は脱ぐのがマナーです。
和装コートにも用途に応じて種類があり、また、襟のデザインによって全体の印象が大きく左右されます。
コートを選ぶポイント
1,生地の素材
2,文様―地紋も含めた色柄
3,衿の形、袖の形などのデザイン
4,丈
これらのポイントについて、写真つきで解説していきます。
和装コートの種類
以前は着物のコートと言えば道行きコートが一般的でしたが、昨今は衿の形や仕立て方が異なるいろいろなデザイン、素材も加わって、着物や帯を選ぶように楽しんで誂える事ができるようになってきました。
大まかなコートの違いですと
・防寒を兼ねたタイプの冬に着るコート
・塵除けコート
・雨ゴート
の3つがあります。
雨ゴート
雨ゴートは専用の生地で作るのが最適です。しかし、雨ゴート専用生地は種類が限られていると気に入ったものがなくて後回しになることもあります。ポリエステルの小紋の生地から選んだり、既製品で仕立て上がった安価な品など昨今は多様な選択肢も増えてきているので一度呉服店で相談してみるのもいいでしょう。
塵除けコート
塵除けコートや羽織は、帯付き姿で街を歩くには抵抗があるという方や、より着物姿のおしゃれを楽しみたい方などに好まれます。ご自身のお持ちの着物の傾向に合わせて色・柄を選んでおくと重宝します。
羽織にするかコートにするかを迷われている場合は、室内で着たまま過ごすことをお考えなら羽織を、脱いで過ごすのをお考えならコートをおすすめします。ご自身の行動範囲や趣味などによって判断されるのが良いでしょう。
▲レースの塵除け道中着
盛夏以外でしたら年中着用できる塵除けコート。人気の高いレースの塵除けコートは透け感が軽やかな印象です。お手持ちの着物の色柄の傾向で作っておくと使いやすい便利アイテムに。
防寒コート
冬の時期に重宝するのが防寒コート。寒がりの方や寒い地域の方はウール、フェイクファーや別珍などの防寒に適した素材を選べば真冬でも暖かく過ごせます。
大きく広げると半円状になるウールの冬映えケープ。カジュアルで寒い日のお出かけにはぴったりです。
コート以外にも防寒対策を
コートの衿タイプ
コートを選ぶ際、衿の形は全体の印象を大きく左右するためとても重要なポイントとなります。
・着物衿
お着物と同じ広衿でお仕立したコートです。
着物衿は年齢や体格を選ばず便利に着こなせます。
・道行衿
もっとも一般的な衿の形です。礼装用からおしゃれまで幅広くお楽しみいただけます。
フォーマル感のある道行コートですと、お茶のお稽古など幅広くご使用いただけます。色合いを抑えめにしておけば、年齢を重ねても長く着用できます。
・道中衿
普段着コートの形です。略式ですので、礼装には向かず、気軽なおしゃれ向きです。
・へちま衿
落ち着いた雰囲気の衿元で、ご年配の方に人気です。最近は洋服のへちま衿ケープなどの流行もあり若い方にも人気です。
・千代田衿
道行衿・道中衿に次いでメジャーな形です。お若い方からご年配の方にまで人気があります。道行衿に比べると若干カジュアルな雰囲気に。
コートのTPO
コートは、目的地に着いたら必ず脱ぐのがマナーですので、着物や帯ほど明確な第一礼装、正装、略礼装などの明確なルールはありません。TPOは、その日の天候や、着物の素材や色柄に準じて判断して問題ないと思います。
■着物とコートの合わせ方の例
▲紬の着物と紬地の道中着
着物と帯の取り合わせと同様に、紬に紬を合わせる上級者好みのコーディネート。泥染めの大島紬や久留米絣は念入りな糸染の工程と強い打ち込みで織り上げられているので、比較的雨にも強くコートとしても活躍します。
▲友禅染の道行コート
ドレッシーな小紋に絵羽模様の友禅のコートで極上の装いに。蒔糊の中に丁寧な糸目の菊が咲く様子の上質な道行コートは後ろ姿もエレガントな印象になります。
裏地を楽しむ
コートの裏地は趣味や好みで楽しめます。派手になってしまった小紋を裏地として使うことも出来ますし、羽裏、肩裏の中にお好みに合うものが見つかることもあります。表から見えないからこそのおしゃれとしてお好きな柄、色のチョイスを楽しみましょう。
▲黒の無地コートはどんな場面でも合わせやすい万能コート。裏地に歌舞伎の柄など、少し変わった柄、自分の好みなどをチョイスするのも面白いですね。
着物の羽織
かつては防寒・塵除けなどのために重ねて身にまとっていた羽織。現在は紋紗やレース生地などの素材も好まれ、春から夏にかけても羽織を纏う人も増えてきました。素材次第とは言え、羽織は通年のワードローブへと変化しています。
羽織はコートと違って前が開いているので、着物を見せながら色や柄合わせをしていくことでコーディネートの幅が広がります。また、コートとは違い室内では着れるという点もあり、帯に自信がない時の帯隠しなどに重宝されますので帯結びを練習中の着付けビギナーさんにもおすすめです。
羽織の歴史
羽織は洋服でいうとカーディガンのようなもので、コートと違い、お茶室以外では室内で着たままでも脱いでも良いものです。室内で着用できることから単衣羽織や紋紗やレースの羽織など、薄手の素材を楽しむ人も増えています。帯結びに不安が残る着付けビギナーにも心強いアイテムです。
羽織はもともと男性のもので歴史は浅く、女性が着用を許されたのは明治に入ってからのことでした。大正時代には、良家の子女を中心に流行しました。
その後昭和10年代と40年代に二度ほど爆発的なブームがありました。昭和10年代~20年代は誰もが当たり前のように羽織っていて、昭和30年代後半~40年代はお子様の入学式・卒業式に出席する際の母親の装いとして黒い羽織を羽織るのが定番となりました。また、総絞りの羽織も流行しました。
家紋の付いた黒の羽織は略礼装で、昭和30年代後半から40年代の子供の入学式・卒業式にお母様方が必ず羽織っていました。
羽織も着物と同様に、柄ゆきで着ていく場所を決めます。落ち着いた色の無地の羽織なら準礼装に着ることが出来ますが、基本的には礼装には向きません。おしゃれ着や街着には小紋柄や絞り、紬の羽織が合います。
丈は流行により、長くなったり短くなったりしています。現在は膝丈が主流です。
羽織を着る季節は?
羽織は「紅葉が赤くなったら着る、桜が咲く頃に脱ぐ」とおぼえておくと、日本全国で対応できます。
ただ、単衣の季節なら、単衣仕立ての夏羽織りを着用できます。絽、紗など通気性の良い素材を用いる夏羽織は着物が透けて見えて涼しげです。
羽織のつくり
羽織紐
帯の上線と、帯締めの真ん中あたりに羽織紐の中心がくるのが良いバランスとされています。紐を結ぶタイプの場合は帯締めと同じ方向に。ビーズタイプやとんぼ玉、組紐など様々な種類がありますので着物と帯のバランスを見ながら、お好みで楽しめます。
袖丈
着物の袖丈と同寸か、一分か二分短く仕立てると、着物の袖が振りから出てくることを避けられます。
マチ
コートにも着物にもない部位。たたむときはマチの中心を脇線と見立てて。
衿の後ろ
後ろで衿を外側に半分折り返して着用します。
衿
たてに折り返してある全体が衿です。広幅分の衿を織り込んで仕立て、衿にある程度の重みを持たせておくと、前下がりで衿がひっくり返りにくくなります。
乳(ち)
羽織紐の両端や、S鐶(かん)を止める部分。乳の位置はとても大切で、羽織った時に帯の上線と帯締めの間に来るとバランスが良くなります。胸板が厚い人やふくよかな人、衿をたくさん抜いて着物を着る人は標準の場所に乳を付けると、羽織紐の位置が高くなってしまいますのでお仕立の時は注意が必要なポイントです。
羽裏
羽織の裏地。きれいな色や柄を入れれば、脱いだ時におしゃれです。
羽織の着方
羽織の着方はいくつかコツがあります。うまく着れないと不格好になる部分もあるので、着方のコツや羽織のきれいな着姿についてまとめました。
・衿の後ろを折る
羽織を着る際、衿は肩から後ろの部分を、「外側」に半分折って着用します。羽織の着方に関して、この衿を折る扱いが上手に着こなせれば上品な雰囲気が出ます。
着物の衿のカーブに合わせて、添うようなイメージです。
うまく折られていないと、着物が衿に隠れてしまい、背後から見た時に不格好になるので注意が必要です。
肩口から下は、自然に外側に折り曲げます。
羽織の脱ぎ方
脱ぐ際は、両方の袖を一緒に引きます。この時、両手を背中の方に持って行き肩からスルスルと落とすように下に引きましょう。肘まで落としたら、片方ずつ脱ぎます。
脱ぐときは、後ろ向きで行うと気品を損なわずに済みます。特に訪問先では注意したいですね。
基本的に、お茶席以外であれば室内でも特に脱ぐ必要はありません。ただし、そのまま座るときは裾を踏んでしまわないように気を付けましょう。長羽織は特に羽織の裾を踏みやすいので脱いだほうが良いでしょう。シワになるのを防げますし、座っている姿をキレイに見せられます。
羽織の丈
羽織の丈は流行によって長さが変わります。戦前は長め、戦後は短め、現在はやや長めのものが多いようです。昨今は膝丈ぐらいの長さの羽織が主流となっています。
▲膝丈の小紋羽織
▲ヒザ下のふくらはぎ辺りまでの丈になると少しレトロな大正ロマンの雰囲気にも。
長羽織
また、お仕立てする素材によって長さを変える場合もあります。
例えば、重ためのしっかりとした質感の生地ですと丈が長すぎると重たい印象になるため短めにお仕立てすることもあります。
逆に、紗やレースなど軽やかで透け感のあるです素材と、丈が短いと余計に軽く感じてしまうので長めのお仕立てをおすすめする場合もあります。
このように、羽織やコートの丈感はその時代の流行や選ばれる素材等によって変わるものですので、一概に「この長さ」という決まりはありません。呉服店で相談しながら寸法を決めるのが安心です。
まとめ
和装の際のコート・羽織について説明しました。
羽織ものには様々な種類があります。コートや羽織のそれぞれが持つ利点を知っておくと、和装のオシャレの幅がより広がります。どのような時に羽織ものを必要としているのか、用途やTPO、お持ちの着物を踏まえて、お好きな雰囲気をぜひ探してみましょう。
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written by TAKAHASHI
文化学部卒業後、和文化に興味を持ち地元の歴史ある企業・きもの永見で呉服の世界へ。 日々着物のことを学びながら皆様の「分からない」にお答えしていきます。