大切な着物を着る時は、雨や泥はねを気にしたり、食事の時の汚れなど心配になりますよね。
そんなお悩みをお持ちの方にぜひ参考にしていただきたいのがパールトーン加工という撥水・汚れ防止加工です。
パールトーン加工は優れた撥水性能で水や油の浸透を防ぐので汚れがつきにくく、たとえ汚れてもお手入れがしやすくなります。
1929年に誕生し、すでに90年近い歴史を持つパールトーン加工は、撥水加工のまさにパイオニアです。今回は、パールトーン加工を扱っている株式会社パールトーンの社員さんに、パールトーン加工のことについて隅々までお話をお伺いしました!
パールトーン加工のことなら何でも聞いてください!
目次
パールトーン加工の効果・特徴
着物以外にも加工ができることや、それぞれ用途に応じてパールトーンをかけておいたほうがいい理由もありますので、そういったパールトーンの効果や特徴について説明をしていきますね。
1、優れた撥水効果で着物を汚れから守る
薬品の選定から配合、加工まで全てが独自に開発された技術は、JIS基準の厳密な試験によって効果を実証。撥水加工の中のJIS規格(日本産業国家規格)の等級評価にて最高の5級という評価を得ています。この優れた撥水効果で着物を汚れから守ります。
▼左:パールトーンをしていない生地 右:パールトーン加工済みの生地
2、絹本来の風合い・光沢を残したまま加工
加工をする前と後で、手で触れてもわからないぐらい風合いは変わりません。
また、素材に合わせてパールトーン加工をするのでどんな素材の着物でも安心して加工ができます。
3、着物の通気性は加工前と変わりません
撥水加工は、繊維の縦糸・横糸の一本一本に対して水・油を弾きやすい成分を染み込ませます。
防水加工とはどう違うの?
防水加工は絹に膜を貼る加工です。生地・繊維の「表面」に膜を張るようにして、水・油を弾きます。特に、防水スプレー等の場合は布地の上にビニールやラップをペタッと貼るようなイメージです。そのため、水だけでなく「空気」も通しにくくなります。
着物のガード加工でも「防水加工」を施した場合、着物の風通しが悪くて着るとムレて暑くなったり、保管をしているうちにカビが生えやすくなるといった欠点がある場合もあります。
パールトーン加工の場合
撥水加工は、繊維の縦糸・横糸の一本一本に対して水・油を弾きやすい成分を染み込ませます。布地自体が水を弾きやすくなっているイメージです。膜が張られていないので、空気は加工前とほとんど変わらずに通ることができます。
▲防水加工のコーティングのように膜が張られていないので、糸と糸との間も加工前と殆ど変わらず、空気も通ることができます。
4、保管中のカビ発生を防止する効果に優れています
パールトーン加工には保管中に発生するカビの繁殖を軽減する「カビ抵抗性」の効果があり、カビの抵抗性0が認められています。
※カビの等級(試験:JIS・Z・2911カビ抵抗性試験、湿式法)
2=試料のカビの発生が1/3を超えるもの。
1=試料のカビの発生が1/3を超えないもの。
0=試料のカビの発生が見られないもの。
ご注意
また、年に一度は虫干しをすることをオススメします。
5、水気による伸縮の軽減
絹は水に濡れたり湿気によって縮む性質を持っています。その縮みの原因となる突然の雨や水汚れに、水を寄せ付けないパールトーン加工は効果的です。
また、絞り着物や羽織などは雨や水に濡れるとしぼが伸びてしまいます。絞りは、水分と熱処理で絞りの山を定着させているので再度水分を含めばもとの平らな生地となってしまうのです。パールトーン加工をしておけば、絞りの伸びなどを防ぐ効果があります。
6、染め替えも可能です
パールトーン加工済みの着物も、染め替えをすることが可能です。
撥水加工だけでなく、しみ抜きや洗い張りなど多岐にわたってご相談をお受けしています。
長襦袢にパールトーンをするとお手入れが楽になります
直接肌に触れる部分が多い長襦袢は汗を吸ったり皮脂がついたりと、着物以上に汚れやすくなります。特に多いのが襟元のファンデーション汚れや袖口の皮脂汚れ、そして裾の泥はね等。また、汗汚れが後からシミになるのを防ぐためにも着用後すぐにお手入れに出さないといけません。
汗や汚れが気になる長襦袢だからこそパールトーン加工をしておけば、汚れが簡単に落ちやすくなります。
メリット1:水を使ったお手入れで簡単な汗処理が可能になります。
汗は通常のドライクリーニングだけは落ちきりません。パールトーン加工済みだからこそ水を使用したお手入れも可能になります。
メリット2:汚れがつきにくく落としやすい
長襦袢は基本下着のため、汗や皮脂が付着するケースが多いです。パールトーン加工済みの長襦袢でしたら、繊維の深部にまで汚れの成分が浸透しにくいので、汚れがつきにくく、クリーニングでは落ちにくい衿・袖・裾の汚れも落としやすい効果があります。
メリット3:化繊長襦袢にも効果的
化繊長襦袢を実際水で洗うと地衿が収縮したりすることもあるようですが、パールトーン加工なら化繊長襦袢にも収縮防止に効果的です。
かけておくと安心!帯のパールトーン
直接肌に触れない帯はパールトーンしなくても…と思われる方は多いかもしれません。
しかし、帯を締めた時の手垢や内側の汗染みからカビ・バイ菌・シミの原因になります。汚れてしまってからよりも事前にパールトーンした方が後々のお手入れが楽になります。帯だからこそ、パールトーン加工をかけておいておいた方が良い理由を説明していきます。
理由1:カビ・バイ菌が繁殖しにくくなります
パールトーン加工は保管中のカビ発生にも高い効果を発揮し、清潔感を保持します。
▼帯のカビの原因としては、帯の中に入っている帯芯から発生している場合が多いです。
理由2:帯は汚れたらしみ抜きできない!
金銀糸を使用していたり先染めの帯の場合、しみ抜きに使用できる薬品が限定されてしまい、汚れを取ることができない、もしくはそもそも触れることができないケースも多々あります。
お腹の部分の手垢の蓄積や、背面のお太鼓部分が気づかないうちに汚れていたというケースもよくお聞きします。帯のシミや汚れを防ぐ効果があるので、後々のことを考えれば早いうちにパールトーン加工をかけておくと安心です。
理由3:金銀糸の変色防止に効果的
パールトーン加工により、金銀糸の酸化による変色や硫化変色の促進スピードを和らげることができます。
年間のカビ取りのご依頼件数は帯が第三位と、上位に並んでいます。
注意:パールトーン加工をかけた着物をクリーニングする場合
着物を着用した後、クリーニング店・悉皆屋などにお手入れに持っていかれると思いますが、パールトーン加工済みの着物を持っていく際には注意が必要です。
なぜなら、通常の着物の丸洗いはパールトーンの効力を減退させるおそれがあるからです。
お手入れ後、パールトーンの効力を確認した上で納品いたします
着物だけにとどまらない、パールトーン加工の技術
パールトーン加工が可能な素材は着物だけではありません。織物や毛皮、木材、紙などの様々な素材に撥水加工をもたらすことができます。
▲パールトーン加工済の草履バッグ。突然の雨で濡れてもさっと拭いたらきれいに保てます。
今現在、パールトーン加工が実際に使われている例としては、ホテルのカーペットや住宅建材、インテリア、ファッション小物などで、広く採用されています。
伝統文化剤の保護にも貢献
パールトーン加工の技術はこれまでに様々な伝統文化財の保護に活用されてきました。たとえば、兵庫県淡路市多賀にある伊弉諾神宮の、ヒノキの皮を重ねて敷く檜皮葺(ひわだぶ)き屋根では、撥水性はもちろん、苔の発生を防ぐ効果も加えることで耐久性を向上。こうした貴重な文化財を後世に伝えていくための技術としても、パールトーン加工は採用されています。
パールトーン加工が採用された文化財など
・清水寺青龍会 雅龍と衣裳 ・晴明神社 御神宝類
・東京芝増上寺会館 篠田桃紅作墨絵壁紙
・伏見稲荷大社 むすび守 災難除守
・祇園祭鯉山 巡行用見送り、胴掛け等一式
・上賀茂神社 摂社:奈良神社/末社:川尾神社などの各檜皮葺き屋根
まとめ
パールトーン加工の特徴は、繊維の一本一本に効果が浸透する点です。そのため、通気性を損なうことなく、着心地はそのままです。さらに絹本来の風合いや光沢も変化することなく、カビへの心配も軽減されるので、安心して着物を長持ちさせることができます。
https://kimono-nagami.com/clinic/
きもののシミ抜きについてはこちら。
written by TAKAHASHI
文化学部卒業後、和文化に興味を持ち地元の歴史ある企業・きもの永見で呉服の世界へ。 日々着物のことを学びながら皆様の「分からない」にお答えしていきます。