お着物に興味のある方で「友禅」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、あらためて、友禅がどのようなものかはご存知でしょうか?
友禅染の中でも、「加賀友禅」は北陸地方で婚礼の際などには必ず加賀友禅の着物やふくさなどを持参していたとされています。
日本3大友禅に数えられる「加賀友禅」について、友禅作家の先生に聞いたことなど、詳しくご紹介していきます。
目次
加賀友禅とは
加賀友禅の始まり
糸目糊とは?
「糸目」とは模様の輪郭にある白い線の部分の事ですが、この線は、あらかじめ下絵の輪郭に沿って防染の糊を置いた跡なのです。
この工程を行うことで、色が輪郭の外に流れ出ることを防ぎ、繊細な図案を描くことができます。糸目糊の技法は自由で繊細な模様を布に染めるために必要な職人技なのです。
挿色の防線が主な目的ですが、水で洗いおとすと草花の葉筋や水の流れなど繊細な白い線が浮かびあがり、装飾効果を高めています。
加賀友禅の特徴~他の友禅とはどう違うの?~
糸目糊を使って防染する技法は京友禅と同じですが、加賀友禅の図案には伝統的な特徴がいくつかあります。
①加賀友禅の伝統的な図柄
緻密で写実的な草花模様
加賀友禅は、自然や古典をモチーフにした絵画調の柄が特徴で、緻密で写実的な草花模様が中心にあります。
花も概して小さめで、刺繍、金箔などで加工してある華麗な図案調の京友禅と比べると、武家風の落ち着きのある図案です。
虫食い葉(わくらば)を描く加賀友禅独特の技法
加賀友禅の特色のひとつが、木の葉に小さな穴や墨色の点で描かれた「虫食い葉(わくらば)」です。
葉の模様に虫が食べたようにする彩色を施すことで、より自然な美しさが表現されています。
②立体感を生む「ぼかし」技法
京友禅は内側から外側に向けてぼかしているのに対し、加賀友禅では模様の端を濃く、中心を淡く染める「先ぼかし」をしています。
外側からぼかしを入れることにより写実性を強め絵画的な立体感が生まれます。
③多彩ながら落ち着いた色合い「加賀五彩」
加賀五彩とは、藍、臙脂、黄土、緑、古代紫の5色で、加賀友禅の基調になっている色です。
現代の加賀友禅作家は、加賀五彩に基づきながらも時代の好みや作家自身の個性を反映させて全体の配色を決めています。
京友禅のように箔置きや刺繍などを併用せず、加賀五彩の色を組み合わせた手書きの染めだけで仕上げるのが伝統的な手法です。
加賀友禅のおおまかな製作工程
①図案
加賀友禅の一番最初の工程です。スケッチをしておおよその線と構想が決まります。
②下絵
実寸の図案を起こして、その上に着物の形に仮縫いをした白生地を置き模様の輪郭を写して描きます。
③糊置き
下絵の線に沿って白生地の上に糊を置きます。
友禅の色挿しをする際に線の外に染料が流れてしまわないようにする、とても重要な工程です。
④彩色
加賀友禅の中心となる工程で、加賀五彩を基調とする色を使い
ぼかしや微妙な色のニュアンスも全て筆で描きます。
⑤中埋め(糊伏せ)
地染めをするための準備の工程です。
模様の部分に地色が入らないように特殊な糊で模様全体を埋めます。
⑥地染め
着物の地色を大きな刷毛で手早くむら無く引く作業です。
湿度や刷毛の力加減に大きく左右されるため、高度の熟練を要します。
⑦蒸し
蒸気の箱の中に反物を入れて蒸す工程。
生地の染料が、膨張した繊維の組織に入ることにより、染色が定着します。
⑧水洗い
流水で糊や余分な染料を洗い流す工程です。水洗は、昔は「友禅流し」と言われていました。
今は自然保護の観点から川で行うことはなくなりましたがかつては金沢の風物詩のひとつでした。
⑨仕上げ
水洗い後は、乾燥、湯のしという工程を経て仕上げられます。
仮仕立てをして、加賀友禅が誕生します。
加賀友禅は多くの工程がありますが、その中でも特に重要な模様の下絵から彩色までを一人の作家先生が行います。
そのため、加賀友禅は作家性の強い染め物とも言われています
実際に加賀友禅の作家さんに質問&お話を聞いてみました
平成6年 前川哲氏に師事
平成13年 加賀友禅作家として独立。落款登録を受ける。
平成14年 第1回加賀友禅染織研究会展入選
第28会加賀友禅新作競技会 石川県伝統産業振興協議会会長賞授賞
平成15年 第2回加賀友禅染織研究会展入選
平成16年 第26回伝統加賀友禅工芸展入選 第3回加賀友禅染織研究会展入選
平成17年 第27回伝統加賀友禅工芸展入選 第4回加賀友禅染織研究会展入選
平成18年 第28回伝統加賀友禅工芸展銅賞
平成20年 伝統工芸士に認定
第34回加賀友禅新作競技会 石川県伝統産業振興協議会会長賞受賞
平成30年 伝統加賀友禅工芸展 金賞受賞作品 『富嶽青富士』
加賀友禅を作る上で大変なことはありますか?
大変だ、と思ったことはないけれど、加賀友禅は手間暇をかけて作られている着物です。
昔ながらの技法で全て手作業で時間をかけて作るというのは大変なことなのかもしれませんが全て手作業で丁寧に作るからこそ、繊細で緻密な作品ができあがります。
菊田先生はどのようにして図案を考えていますか?
自分の描いた着物を着てくださった人が大満足してくれるものを作りたい、という思いを第一に
出来上がった着物を、どんな人がどのような場面で着られるのか…。
そういった場面を思い浮かべながら考えて作っています。
作業場所は、様々な資料を並べながら、机の上で考えることが多いです。
また、加賀友禅は写実的な草花模様を描くので実際のお花をスケッチしたりもします。
特に春頃は道端にいろいろな花が咲く季節でとても参考になります。
伝統工芸展で金賞を受賞した「富嶽(ふがく)青富士」について
様々な作家さんが大作として富士山を描かれていたこともあり、自分自身も富士山を描いてみたいという思いもあり
富士山を描くのが楽しいというところから、作品ができあがりました。
まず、着物はやはり着姿の美しさが大切なのでそこを意識して
着ると綺麗だし、掛けておくと一枚の芸術品としても良いものができればという思いで作りました。
先生が思う加賀友禅の素敵な所は?
伝統的な手法と全て手作業でつくられている加賀友禅は、なくしてはいけない伝統品だと思います。
手作業が加賀友禅の特徴で、そこに携わる作り手の思いが込められた着物は手間暇をかけて作られたからこそ。
作家はある種哲学のようなものだと思っていて、みんな悩みながら
それぞれの作家さんが意匠、思い入れ、アイディア、技術などを込めて作るのが、加賀友禅の良いところです。
昔は作家さんごとのブランド力を魅力としていたけれど今は加賀友禅というくくりで技術・技法の方がブランドになっているように思います。
作家がいることが大切な加賀友禅なので、作家さん一人ひとりの特色やその着物に込めた思いが伝わるように作家さんの紹介ができればいいな、と思っています。
▲きもの永見での加賀友禅彩色体験の様子。
菊田先生に指導してもらいながら、お客様に加賀友禅の技法を楽しく体験して頂きました。
加賀友禅の品質の証明、落款(らっかん)とは?
落款(らっかん)とはなにか
加賀友禅の作品には、下前の部分に小さく印鑑のようなものが捺されています。これは「落款(らっかん)」と呼ばれ、誰が手掛けた作品かを教えてくれています。それが作り手の誇りと責任であると同時に、作品をまとう人の誇りにもなります。
▲菊田宏幸先生の落款
落款(らっかん)制度とは?どのように登録されているの?
伝統工芸品の中でも、作家の「落款制度」がある工芸品は殆どありません。加賀友禅の作家は「加賀染振興協会」の会員であり、そこにそれぞれの「落款」を登録していますが、ある一定の経験と技術に加えて、品性と芸術性を持ち合わせた人でなければ「加賀染振興協会」の正会員にはなれません。この落款は「間違いない作品」という保証をしてくれているのです。
なぜ加賀友禅には落款(らっかん)があるの?
加賀友禅は、図案から全て分業の京友禅や他の多くの染物と異なり、分業制になっていません。一人の作家が、前述の制作工程のようなたくさんの仕事を手作業で最初から最後まで手掛けます。友禅作家がデザイン、彩色し、地色を決定するので、出来上がった作品については自分で責任を追うものとなります。その証明が、加賀友禅の「落款」なのです。
「落款(らっかん)」登録までの厳しい道程
作家になるためには、まず師匠に弟子入りをして修行をします。加賀友禅の製作工程は、前述に述べたものは大まかなもので、本来は気が遠くなる程多くの工程がありますがその全てを師のもとで学んでいくのです。
さらに、「加賀染振興協会」に「落款」を登録し、会員となるためには最低でも7年間この修業を続けなければなりません。もちろん7年で独立できる保証はなく、おおよそ10年がひとつの区切りと言われています。
年数の他に、師匠が「独立するに相応しい」と判断し、なおかつ第三者の会員が一緒に推薦をする必要があります。これが認められてはじめて晴れて会員となり、ようやく落款の登録をすることができるというとても厳しい道程なのです。
どんな味を出したいと思って制作したかを語りかけているように思います。
きもの永見SNS
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written by TAKAHASHI
文化学部卒業後、和文化に興味を持ち地元の歴史ある企業・きもの永見で呉服の世界へ。 日々着物のことを学びながら皆様の「分からない」にお答えしていきます。